住宅ローン控除の適用を受けていると所得税が全部還付されてしまうので、もう他の控除項目は申告しなくても良いんじゃないの?という誘惑に駆られる事が有るようです。特に医療費控除は年末調整では対応できず、必ず確定申告をしなければならないからそういう事になるんでしょう。(住宅ローン控除は2年目からは基本的に年末調整で対応可能)
しかし、そういう場合でも医療費控除が受けられる程に病院に行っているなら、確定申告をした方が税金が安くなる人が大半です。では、なぜ還付する所得税が無いのに税金が安くなるのでしょうか?
答えはタイトルにも有るように【住民税(翌年度分)】が減るからです。順を追って見て行きましょう。
目次情報
住宅ローン控除と医療費控除の内容を簡単におさらい
住宅ローン控除とは正式には「住宅借入金等特別控除」と呼ばれるもので、年末の借入金残高の1%までを税金から控除してあげましょうという制度(詳細は後ほど)です。住宅ローンの金利負担を軽減してあげますので、家買って経済活性化しろよというのが趣旨です。
控除可能額は居住年によっても変わってきますが、現在の住宅ローン控除(減税)の制度は以下のようになっています。
(出典:住宅ローン減税制度の概要|すまい給付金)
平成26年4月以降に関しては消費税の引き上げが有ったので控除枠も大きくなり、所得税の場合は年間最高40万円まで、住民税に関しては最高136,500円の還付・控除が受けられます。長期優良住宅、低炭素住宅の場合はもっと金額が大きくなるとか色々論点は有るのですが、僕はもう今年住宅ローン控除の記事を書く余裕が無いので、更なる詳細は
とか
住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)-国税庁
とか
住宅ローン控除を改めて確認しておこう! [住宅購入の費用・税金] All About
を見て勉強してみてください。下記FPの人のサイトなんか住宅ローンをどう活用すれば最もお得なのか!っていうのが実例付きで超細かく書かれているので参考になると思います。
医療費控除に関しては別途記事を書いていますので、下記記事あたりを参照して下さい。
医療費控除の計算方法や申請方法、明細書の書き方
医療費控除の対象となるもの・対象外となるもの【まとめ一覧】
一応、医療費控除の計算式を引用しておきます。
(医療費の額ー保険金等)ー 最低金額(*1)=医療費控除の額(最高200万)
*1 ここは【10万円】か【課税標準の合計額×5%】のいずれか少ない方の金額が該当します。課税標準額が200万円未満であれば最低金額が10万円を下回ります。
10万円もしくは課税標準の5%のいずれか安い金額を超える医療費については医療費控除の適用が受けられるという仕上がりになっていますね。
なぜ両方申告しておいた方が良いのか?
冒頭にも書きましたが、例え住宅ローン控除で所得税が全額無くなったとしても医療費控除も同時に申告しておいた方が良いです。というのも、所得税・住民税の計算上の問題で
- 住宅ローン控除(減税)・・・税額控除
- 医療費控除・・・所得控除
このように、イメージ画像からも分かるように
「医療費控除は税額を掛ける前の所得から差し引くもの」
「住宅ローン控除は課税所得に税率を掛けて算出された税額から差し引くもの」
という違いが有ることが分かると思います。そして、確かに「所得税」だけの観点から見ると住宅ローン控除で全ての所得税が無くなるならば、わざわざ医療費控除のために確定申告をする必要は有りません。
ただ、ここで問題になってくるのが「住民税」の問題です。寄附金控除と異なり、医療費控除は所得税の計算においても住民税の計算においても所得控除項目です。
つまり、そもそも医療費控除は「算出される所得税額ないし住民税額」を少なくする効果が有るわけです。それにより以下の効果が生まれます。
- ①算出所得税額が少なくなるので所得税の減額に使用される住宅ローン控除額が減る(その分住民税の控除に回せる)
- ②医療費控除の申告をすることで住民税額もその分減る
ちょっと、言葉だけではイマイチ分かりにくいと思うので、次のセクションで実例を示してみたいと思います。
実例
前提は以下の通り。
- 医療費控除を申告しなかった場合の課税標準(所得金額)・・・3,000,000円
- 医療費控除を申告した場合の控除後課税標準(所得金額)・・・2,950,000円
- 医療費控除の額・・・50,000円
- 住宅ローン(借入金)残額・・・30,000,000円
- 居住年月・・・平成26年10月
なお、計算するにあたって医療費控除以外の所得控除などは全て正しく計算されているものとします。また、復興特別税は加味していません。住民税額は簡易的に所得金額の10%として計算しています。
■医療費控除を確定申告で申告しなかった場合の税額
この場合の課税標準額は3,000,000円です。まずは、所得税額を算出します。税率表は下記の通り。
(出典:No.2260 所得税の税率-国税庁)
所得税額=(3,000,000円×10%)-97,500円=202,500円
住宅ローン控除額=30,000,000円×1%=300,000円
よって、住宅ローン控除額によって、所得税額202,500円は全て還付され、この年の所得税額は0円となります。
住宅ローン控除額の残額(住民税から控除出来る金額)=300,000円-202,500円=97,500円
住民税額=3,000,000円×10%(前提より)=300,000円
住宅ローン控除後の住民税額=300,000円-97,500円=202,500円
よって、この場合の所得税・住民税負担額は【202,500円】となります。
■医療費控除を確定申告で申告した場合の税額
所得税額=(2,950,000円×10%)-97,500円=197,500円
住宅ローン控除額=30,000,000円×1%=300,000円
よって、住宅ローン控除額によって、所得税額197,500円は全て還付され、この年の所得税額は0円となります。
住宅ローン控除額の残額(住民税から控除出来る金額)=300,000円-197,500円=102,500円
住民税額=2,950,000円×10%(前提より)=295,000円
住宅ローン控除後の住民税額=295,000円-102,500円=192,500円
よって、この場合の所得税・住民税負担額は【192,500円】となります。
まとめ
医療費控除を申告しなかった場合の合計税額:202,500円
医療費控除を申告した場合の合計税額:192,500円
その差は10,000円となっていますね。
内訳は「①所得税控除後の住宅ローン控除額の残額(住民税控除に回せる金額)「102,500円と97,500円」の差額5,000円」と「②単純な住民税の医療費控除減額分5,000円」です。
自分の所得や居住年度、借入残高などなどによってどれだけ控除できるのか?お得になるか?は計算してみないと分からないですが、何にせよ控除項目が有るなら申告しておいた方がお得って話でした。
平成19年度・平成20年度入居の方の場合、所得税で控除しきれなかった部分を住民税から控除することが出来ませんが、ふるさと納税(寄附金控除)と違って医療費控除は所得税も住民税も所得控除項目なので、例え住宅ローン控除の控除枠が余ったとしても、医療費控除も合わせて申告した方が良いです。
上記の「②単純な住民税の医療費控除減額分」が有りますからね。
最終的には税理士に確認を~