公的年金の支給年齢引き下げや支給額引き下げが心配される今日このごろ。老後の生活費を手厚くするために、民間の積立保険への加入を検討される方も多いのでは無いでしょうか。老後の為の民間保険で代表的な物で言えば「個人年金保険」が有ります。
商品名に「年金」と書かれていることから、公的年金の上乗せを考えている人にとっては「まさしくコレが私の求めていた商品だ!」という感じで、飛びついてしまう人もいるようですが、果たしてそうでしょうか?
結論から言うと、個人年金保険と確定拠出年金を比較すれば、確実に確定拠出年金の方がお得です。仮に個人型確定拠出年金(以下個人型DCと書きます)への加入資格が有るのであれば、まずは個人型DCに加入して、その上で資金的に余裕が有るなら、民間の積立保険に入るというのが正しい順番だと思います。
個人型確定拠出年金(個人型DC)の概要とメリット・デメリット
そもそも個人年金保険とは
個人年金保険については、別途詳しく記事を書こうと思っているので、簡単に書きます。
個人年金保険には「確定年金・有期年金・終身年金」という3つの種類が有り、老後の生活をどのようにしたいか?によって加入するタイプが変わります。それぞれの意味は大まかに分けると以下のようになります。
- 確定年金・・・支給される期間が決まっている⇒被保険者が死んでも家族が受け取れる
- 有期年金・・・支給される期間が決まっている⇒被保険者が死亡するとそこで支給はストップ
- 終身年金・・・被保険者が生きている限りずっと支給される⇒被保険者が死亡するとそこで支給はストップ
他にも最近は「夫婦型の個人年金保険」という物が有り、夫か嫁かのどちらかが生きている限り貰える保険も有るようです。
積立時の節税
個人年金保険は一定の条件を満たすと、所得税の場合は年間最大4万円の所得控除、住民税の場合は年間最大2.8万円の所得控除を受けられます。積立金と所得控除可能額の関係性は以下のようになっています。
控除額の情報は平成24年1月1日以降に契約した場合の金額を表示させています。
仮にMAXで所得控除を受けた場合の節税金額は以下のようになります。
課税所得 金額区分 | 所得税 節税効果 | 住民税 節税効果 | 合計 |
---|---|---|---|
195万以下 | 2,000円 | 2,800円 | 4,800円 |
195万超~330万以下 | 4,000円 | 2,800円 | 6,800円 |
330万超~695万以下 | 8,000円 | 2,800円 | 10,800円 |
695万超~900万以下 | 9,200円 | 2,800円 | 12,000円 |
900万超~1800万以下 | 13,200円 | 2,800円 | 16,000円 |
1800万超~4000万以下 | 16,000円 | 2,800円 | 18,800円 |
4000万超え | 18,000円 | 2,800円 | 20,800円 |
大体サラリーマンの人であれば、「195万円以下」「195万超~330万以下」の人がマジョリティーだと思うので、年間の節税額で言うと4,800円とか6,800円です。
結構少ないなーと思う人も多いと思いますが、30年毎年継続すればそれぞれ「14.4万円」「20.4万円」なので、やらないよりはやった方がお得であることに間違いは無いです。
■個人年金保険料控除を受けるための4要件
①年金の受取人は、保険料の払込みをする者(=契約者)、又はその配偶者となっている契約であること。
②年金受取人は被保険者(保障の対象者)と同一人であること。
③保険料払込期間が10年以上であること。
④年金の種類が確定年金の場合、年金支払開始日における被保険者の年齢は60歳以上で、かつ年金支払期間が10年以上であること。
個人年金保険で保険料控除を受けるためには上記4要件を満たす必要が有りますので、注意してください。
年金受取時の所得について
次に民間の個人年金保険を頑張って積み立てて、実際受けとるとなった場合の所得について見て行きましょう。
■年金で受けとる場合
民間の個人年金を受けとる場合の所得区分は「雑所得(公的年金等以外のもの)」となります。公的年金を受け取った場合も大まかな区分としては同じですが、厳密に言うと「雑所得(公的年金等)」です。
同じ雑所得ですが、受取時の税制優遇は「雑所得(公的年金等)」の方が遥かに大きくなります。つまり、支払う税金の額が大きく変わります。
雑所得の計算式
(1) 公的年金等以外のもの
総収入金額-必要経費
(2) 公的年金等
収入金額-公的年金等控除額
上記計算式で求められた金額に、課税所得金額に応じた税率をかけることで所得税を算出します。
ちなみに「公的年金等控除額」は受取時年齢が「65歳未満で最低70万円の控除」「65歳以上で最大120万円の控除」です。
そして、残念なことに民間の個人年金保険の受取時に「必要経費」という概念は発生しないため控除(必要経費)は認められず、年金を受け取ったら丸々その金額を収入金額として申告しなければなりません。
仮に、60歳の時点で年間70万円の年金を受け取った場合、公的年金であれば所得税0円ですが、民間の個人年金であれば35,000円の所得税(*1)が発生します。
*1 所得区分5%として計算:その他控除は考慮せず
■一時金で受けとる場合
民間の個人年金保険も基本的に「年金」として受けとる事になりますが、一時金で受け取れる場合が有ります。その場合の所得計上区分は「一時所得」です。
長くなるので計算は割愛。
個人年金保険と個人型DCの節税額も考慮した戻り率を実際に計算してみた
というわけで、やっと本題。実際問題、個人年金保険と個人型DCでどれくらいお得度が変わって来るのか?実際に計算してみたいと思います。
■計算の前提
- ①払込期間:30年で毎月2万円
- ②払込金額:毎月2万円(年額24万円、総額720万円)
- ③払込開始年齢:30歳
- ④支給年数:10年に設定(年金で受取)
- ⑤民間の個人年金保険は「東京海上日動あんしん生命 5年ごと利差配当付個人年金保険 無選択加入特則付加(現在販売休止中)」で計算。①~④の前提で60歳から貰える年金は年額85.8万円(合計:858万円 戻り率:119.1%)
- ⑥個人型DCは資産運用で受給額が変わるという側面も有るし、口座維持費などの費用が発生するため、厳密に計算すると非常に細かくなってしまう。その為、敢えて個人型DCの場合の年金受取額も「年額85.8万円(合計:858万円 戻り率:119.1%)」と想定して計算
- ⑦計算の簡略化のため、税率区分は「所得税5%、住民税10%」が必ずかかるものとして計算。
- ⑧計算の簡略化のため、控除項目は年金に関わる物以外は無いものとして計算
はい、というわけで掛金払込時の節税額及び受取時の税金を加味した、実質戻り率は上記のように約30%以上も個人型DCが有利という事が分かりました。
控除項目が無いものとして計算したり、本来なら住民税がかからない所をかかるものとして計算しているので、実態からはかけ離れているのですが、個人型DCと個人年金保険なら圧倒的に個人型DCの方が有利である事は分かって頂けると思います。
てか、やっぱ受取時の税金考えるとそんなにお得じゃないよねぇ。
まとめ
とは言え、個人年金保険も貯蓄性が全く無いわけではないので、自分でお金を貯められない人は考えてみても良いかもしれません。
ただ、インフレに弱い(*1)というデメリットを考えれば「個人向け国債」を買っといた方が良かったー!なんて事にもなりかねませんので、個人年金保険に加入する際は色々な角度から必要性・経済性を検討して加入するようにしてください。
*1 個人年金保険は総額戻り率「110%」とか「120%」と書かれることが多くて、一見それだけを見ると良さそうに感じるのですが、年利で直すと1%に満たない事が多く、実は大した貯蓄性は無かったという事が往々にして有ります。
しかも確定型の年金であれば年金支給額は加入した時点で決まってしまうので、今後インフレ率が2%とか3%になってしまうと実際には資産価値が目減りしてしまうなんていう現象が起きてしまいますよ!という意味で、インフレに弱いという事です。
なお、今回は個人型DCの場合を念頭に書きましたが、企業型DCの人でもマッチング拠出(事業主掛金に従業員が掛金を上乗せするタイプ)が出来るのであれば同じ効果が有ります。また改正でほぼ全員の国民年金加入者が個人型DCに加入できるようになるので、今後は個人年金保険の存在意義が薄れていくかもしれませんね。