今回は個人型確定拠出年金、俗にいう日本版401k(個人型だけの事じゃないけれど)について記事にしてみたいと思います。
なお、今回は主に個人型確定拠出年金(以下個人型DCと書きます)に絞って記事にしていきます。企業型DC制度に関しては別記事で書こうと思います。(と言っても平成27年の改正で平成29年からは全ての国民年金の被保険者が個人型DCに加入できるようになりますが。)
確定拠出年金法の改正が予定されています。下記記事と合わせて読んで頂けると理解が深まると思います。
個人型確定拠出年金(個人型DC)の概要
そもそも、個人型確定拠出年金(個人型DC)とは何か?というと「企業に属していない自営業等が老後資金を作るために利用できる年金制度」です。
国民年金基金の記事を書いた時にも出したこの図を見て下さい。
(出展:日本年金機構)
僕達、自営業は国民年金しか通常貰えません。国民年金だけを払っていても65歳になってから貰える金額は満額で月額6.5万円くらいです。流石にそれだけしか収入がないのに生きていくのは厳しいでしょう。
そこで、税制上の優遇措置を与えてあげるから、自営業の人は自分でしっかりと積み立てておきましょうねというのが個人型DCの基本的な考え方。国民年金基金と同じです。
加入資格が有る人(個人型DC)
- 自営業者(第1号被保険者)
- 企業年金の無い会社に勤めているサラリーマン(第2号被保険者)
自営業しか加入できない国民年金基金とは違って、個人型DCに関しては厚生年金以外の企業年金制度の無い会社に勤めている人も加入できます。企業年金制度の有無による不公平感を無くすためですね。
ただ、サラリーマンは厚生年金が有りますから、自営業で個人型DCに入っている人と比べると拠出限度額は少ないです。
注:個人型DCは国民年金をきっちりと払っていないと加入できません。現在免除を受けている人も駄目です。(今払ってればOKという事。ただ、未納分が有る場合は、個人型DCに拠出しても掛金が返金されて、まず未納分払おうね~という事になります。)
よって、上のリストには書いていませんが、国民年金さえ払っていれば学生及び無職者でも加入可能です。現在のところ専業主婦や公務員、DC以外の企業年金制度が有る会社に勤めているサラリーマンは個人型DCには加入できません。
掛金拠出限度額
現在のところ、個人型DC加入者の掛金拠出限度額は以下のようになっています。掛金の支払いは最低金額5,000円から1,000円刻みで月単位で納付します。一度決定した掛金は毎年4月~3月までの間に一回だけ変更が可能です。
加入者 | 限度額 |
---|---|
自営業 (第1号被保険者) | 月額6.8万円 (年額81.6万円) *1 |
企業年金が無い会社に 勤めているサラリーマン (第2号被保険者) | 月額2.3万円 (年額27.6万円) |
*1 国民年金基金加入者は両者合わせて月額6.8万円(年額81.6万円)までです。一応併用可能です。
また国民年金の付加年金を払っている人は合わせて月額6.7万円までです。
加入者の状況
平成26年3月末(2014年3月末)における年金制度全体の加入者状況は以下のようになっています。(画像が小さくてすいません。)
(出典:確定拠出年金法等の一部を改正する法律案)
上記画像のうち、赤枠で囲った部分が個人型DCに加入している人の人数です。なんとたったの約18万人。国民年金の加入者数6,718万人と比べると微々たるものですね。また、自営業のための年金制度である「国民年金基金:48万人」と比べても、かなり少ないです。(そもそも制度が始まったのが遅いという理由が有りますが。)
なお、平成26年3月末における個人型DCの加入割合(自営業と企業年金のないサラリーマンの加入割合)は以下のようになっています。
(出典:業務の状況|個人型確定拠出年金)
1号が自営業で、2号が企業年金のないサラリーマンの事です。
それぞれ、個人型DCを利用している人の割合を計算すれば、自営業者の場合で約0.3%、サラリーマンの場合で約0.68%と非常に少ないですね。逆に言えば99%以上の人は個人型DCを利用できる資格が有るのに利用していない事になります。
個人型DCの利用者数は現時点でも右肩上がりですし、改正により対象者の枠も広がるので、今後はもっと多くの人が利用することになると思いますが、あまりにも少なすぎますね。
この記事を読んでいる人の中で「おいおいそんなに加入者が少なくて年金の財政状態は大丈夫なのか?」と思われた人もいるかもしれませんが、それは大丈夫です。
なぜなら「確定拠出年金」だからです。確定拠出年金は従来の年金と違って、掛金納付額に対して受給額が予め決められているという制度では有りません。次のセクションでも書きますが、確定拠出年金とは「決められた掛金を拠出」して、その範囲内で【自分専用の口座の中で自分で運用】する制度です。
ですから、将来貰える年金の額は自分の運用の巧拙によって大きく変わってしまう可能性が有ります。
しかし、一方で加入者全体のお金を管理団体が預かって一律に運用するという性質の制度では無いので、他の加入者数の状況や管理団体の運用の巧拙等によって自分の年金の受給額が変わるという制度では無いのです。
資産を自分で運用する
先ほども書きましたが、確定拠出年金制度においては、拠出した掛金を自分で運用することになります。
通常の年金制度では、予定利率と掛金に基いて資金運用団体が確定された年金額を支払えるように運用してくれるわけですが、確定拠出年金の場合はそうはいきません。
後でも見ますが、確定拠出年金の運用商品には「投資信託」などの預貯金や国債と比べて、ある程度リスクが高い商品も含まれています。従って、もし運用に失敗すれば掛金総額よりも受給金額のほうが少なくなってしまう恐れが有ります。つまり元本割れです。
こういうリスクが有ることが、個人型DCへの加入者の伸びを抑えている要因なのかもしれません。
投資運用商品
現状の制度では運用管理機関は加入者に対して「3つ以上の商品を提供」し、かつ、その内の「一つは元本確保型商品」で無ければならないという縛りが有ります。
■元本確保型商品
■元本確保型では無い通常の運用商品
上記は一例ですが、運用管理機関が上記の中から選んで加入者に対して商品を提示します。なお、個人型DCの場合は全国で150以上ある運用管理機関の中から自分の目的に最も合致した機関を選ぶ必要が有りますので、これが結構煩雑です。
運用商品は管理機関毎に異なりますから、最初の管理機関の決定は慎重に検討しなければなりません。
運用管理機関の一覧は国民年金基金連合会のHPで見れます。
ポータビリティー(年金資産の移管)
DCの場合、年金資産は個人の口座に入っていますから、転職先企業が企業型DCに加入している場合や個人DCに加入可能な場合などには、元々自分が持っていた個人型DCの口座を移管する事が出来ます。。
また、自営業になって個人型DCに加入する場合、自営業からDC制度に加入可能な会社へ再就職する場合なども移管可能です。これをポータビリティーと言います。
但し、現在のところDC(確定拠出年金)⇒DB(確定給付企業年金)への移管は認められておりません。では、移管が認められなかった場合どうなるのか?というと「運用指図者」という立場になります。
運用指図者とは掛金の拠出は出来ないけれど、既に積み立てられている資産についての運用(どの商品に投資するかとか)だけは出来る人の事を指します。
注意:DC制度への加入資格が無くなった時から6ヶ月以内に手続きを行わない場合、年金資産は現金化され国民年金基金連合会に自動移管されます。
自動移管されると、無駄な管理手数料も取られますし、手続きを行うまでは年金受給時に通算加入期間にも参入されません(受給開始年齢が遅くなる可能性が有る)。また現金化されて移管されるので何の利益も出ません。加入資格が無くなる事が事前に分かっているなら早め早めに手続きを行っておきましょう。
個人型DCを運用するに当たってかかる手数料(費用)について
個人型DCに加入して資産を運用するためには「手数料」を支払う必要が有ります。手数料は「①加入時のみかかる手数料」と「②加入し続ける限りずっとかかる口座維持手数料」の2つに分けられます。それらの費用と金額をまとめたものが以下の表です。
■①加入時手数料⇒初回だけ支払う
支払先 | 金額 | 内容 |
---|---|---|
国民年金基金 連合会 | 2,777円(*1) | 口座開設手数料 |
運営管理機関 (銀行や証券会社) | *2 | 口座開設手数料 |
*1 どこの金融機関で口座を開設しても一律にかかる費用です。
*2 運営管理機関が口座開設手数料の名目で費用を徴収することはあまり無いですが、SBI証券などで稀に徴収されます。
支払先 | 金額 | 内容 |
---|---|---|
国民年金基金 連合会 | 毎月103円(*3) | 掛金収納代行手数料 |
事務委託先金融機関 (信託銀行など) | *4 | 財産の保全 |
運営管理機関 (銀行や証券会社) | *5 | 資料提供の手数料など |
*3 年間1,236円。どこの金融機関で口座を開設しても一律にかかる費用です。
*4 概ねどこの金融機関でも月額64円(年額756円)のようですが、一部の機関では違うようです。
*5 金融機関によって異なりますが、年間2,000円~8,000円程度の幅です。
下記モーニングスターのサイトで一部管理機関の手数料等について比較できます。
⇒個人型確定拠出年金のポータルサイト
個人型確定拠出年金(401k)の運営管理機関選びのポイント!おすすめはどこ?
年金の受取に関して
年金の受取は「老齢給付金、障害給付金、死亡一時金」の三つの手法が有ります。主に老齢給付金に関して解説します。
老齢給付金は原則として【5年~20年の有期年金】として受け取ります。
但し、運営管理機関が定めている場合には以下2つの方法で一時金として受けとる事が可能です。
- ①一時金としての一括受取
- ②年金として5年経過後、残額を一時金として受取
従って、どうせ加入するのであれば早めに加入した方が良いという事になります。
では、次からは個人型DCの制度についてメリット・デメリットに分けて紹介していきます。
個人型DCのメリット
まずはメリットから。
掛金拠出時・年金(or一時金)受取時の優遇税制
掛金は全額所得控除、受取時は退職所得もしくは公的年金等の雑所得に計上される事になるので、民間の個人年金保険よりも有利です。
この辺りは、国民年金基金の概要や小規模企業共済の記事で詳しく書いているのでそちらを見てください。同じです。
運用益は全て非課税
通常口座の場合だと預貯金の利息にも税金がかかります。僕らの預金通帳に記帳される預金利息は源泉20%(復興特別税は考えてない。)を引かれた状態の利息です。しかし、確定拠出年金の口座内で発生した運用益は非課税です。
例えば、毎月積立額5万円、年利3%かつ複利で合計30年金融資産を運用した場合に、通常の証券口座で運用するか確定拠出年金の口座内で運用するかで、どの程度最終的な受取金額が変わるか見てみましょう。
この場合の積立元本総額は1,800万円です。
■通常の証券口座
⇒最終受取金額約2,632万円(元本1,800万円、利息部分(源泉控除)832万円)
■確定拠出年金口座
⇒最終受取金額約2,913万円(元本1,800万円、利息部分1,113万円)
2,913万円ー2,632万円=281万円
毎年20%の源泉を取られるだけで、30年後には約281万円もの差になって現れました。そもそも毎年年利3%を達成できるんですかーという問題は置いといて、いかに運用益に対する課税が無いことが有利か理解できるのでは無いでしょうか。
加えて、確定拠出年金なら受取時も掛金拠出時も優遇を受けられます。
ちなみに「運用益が非課税」というフレーズはどこかで聞いた事が有りますね。NISAですねー。そちらについては下記記事を参照してください。
なお、なぜ国民年金基金や小規模企業共済の記事で「運用益が非課税」というメリットを書いていないのかというと、これらの制度は自分で運用する必要が無い制度だからです。
これらの制度は、そもそもこういう利益や費用もひっくるめて全て管理した上で、予定利率に基いて確定された受給額を加入者に提供するものなので、運営団体の中で利益や費用は一括で処理されています。だから僕らに直接運用益が有るとか無いとかは関係無いわけです。
一方、確定拠出年金は自分で資産運用をする制度で有ることから、運用に関する費用(口座維持費や投資信託の手数料etc)は加入者自身が負担しなければなりません。
運用コストが通常の(証券)口座の場合と比べて低い
例えば、投資信託を購入する場合「購入手数料」「運用管理費用(信託報酬)」「委託売買手数料」「信託財産留保額」などの費用がかかってきますよね。
通常の証券口座では投資信託を買う場合はノーロードファンドを購入する場合は別として基本的に購入手数料がかかるものが多いですが、確定拠出年金の投資信託の場合は購入手数料が基本的にかからないので、投資信託のスイッチングコストが殆どかかりません。
また、投資信託を利用する場合に最も重荷になってくる「運用管理費用(信託報酬)」も割安になっている事が有るようです。
運用管理費用とは資金を管理する「受託銀行」、運用を行う「投資信託会社」、販売を行う「販売金融機関」の三つの機関へ手数料として支払われるもので、購入額に対して日割りで年率~%の金額が発生します。
「確定拠出年金最良の運用術」で紹介されていた投資信託ですが、例えば「ノムラ・ジャパン・オープン」という商品が有ります。それぞれ目論見書へリンクを貼っています。以下は運用管理費用の分だけ抜粋してきたものです。
通常のものは年1.6416%ですが、DC向けのものは年1.4742%です。その差はたったの年0.1674%です。最初の内はDC口座内にある資金も少ないでしょうから、そこまで影響は大きく有りません。
ただ、毎年ちゃんと積み立てて資金が多くなってきたらどうでしょうか。仮に500万円の資金を1年間上記投資信託に投じていた場合の信託報酬の差額は8,370円です。それを10年間にすれば83,370円です。0.1%でもバカに出来ませんね。
他にも定期預金の利率なども通常口座の利率と比べて優遇されている場合が有ります。
60歳から確実に受けとる事が出来る
公的年金は原則65歳からが受取開始年齢となっています。繰上げ受給により、60歳からでも受けとる事は可能ですが、貰える年金額が目減りしてしまいます。
その反面、個人型DCは自分の個人口座の中で運用してきたものですから、60歳から受け取っても資産が目減りすることは有りません。また、社会保障費の増大のせいで公的年金の受給年齢を更に引き下げるという話も有りますが、DCの場合は自分が運用して得た資産ですから、社会保障費がどうとか関係なく確実に60歳から貰えます。
つまり、公的年金や小規模企業共済が原則支給されるまでの60歳~65歳までの間のつなぎ資金としても利用可能です。
注1: DCへの通算加入期間が10年に満たない場合は60歳から支給は受けられませんので注意してください。
注2:小規模企業共済は何歳から受けとるというのは無いですが、最低でも65歳以上になってから貰える共済金Bを選択しないと受給金額が減ってしまうので、そういう意味で65歳と言っています。
小規模企業共済の受取事由毎の計算方法や課税関係のまとめ
個人型DCのデメリット
続いてデメリットです。
原則60歳までは引き出せず、現金化が困難になる
確定拠出年金はその名の通り「年金」ですから60歳までは原則引き出せません。老後資金の為に積み立てている訳ですから、むしろ引き出せる事の方が問題です。(僕のような人間はお金が有ったら有っただけ使ってしまいます。)
従って、お金が必要になった時の資金としてアテにすることは出来ません。税制メリットを最大限に受けるためには上限いっぱいまで利用した方が良いのですが、お金が入り用の時期に差し掛かった場合には余裕を持って積み立てていく等の対策が必要です。
注:原則60歳までは引き出せませんが、加入期間が短い場合や資産残高が極めて少ない場合などには脱退一時金を受給することが出来ます。詳細は下記PDF記事の「4 脱退一時金の支給要件」を御覧ください。
掛金総額に比べて大きく損をする場合も有る
これも既に概要部分で触れましたが、念のためもう一度書いておきます。個人型DCは「確定拠出」ですから、運用は自分で行います。もし、損失が出てもその責任は自分が被らなければいけません。
例えば、僕が全ての資金を投資信託に投じていて59歳の頃に4,000万円お金が溜まっていたとしましょう。でも丁度この時に市場の暴落がおきて投資信託の価値が10分の1になってしまったら?受け取れる金額はたったの400万円になってしまいます。掛金の拠出金額よりもきっと少なくなってしまいますね。
もちろん、DCの場合70歳までは運用可能なのでそれまで塩漬けにして待つ手法も取れますが、70歳までに投資信託の価値が回復しなかったら終わりです。そうならないためにも年齢に応じてリスク資産を減らしていくなどの対策が必要です。
確定拠出年金の預金もペイオフの対象
これはデメリットというよりは単なる注意点です。現在の制度では金融機関が潰れてしまった場合、1金融機関毎に元本1,000万円(+利息)までしか保護されません。これをペイオフと言いますね。実は確定拠出年金口座内の預金に関してもペイオフの対象になります。
従って、メインバンクも確定拠出年金の管理機関も同じという人は少し注意が必要です。確定拠出年金の口座を移すのは面倒なので、通常の預貯金を他の銀行に移すか、確定拠出年金口座の預金を比較的安全性の高いMMFなどに移して保管しておくと言った対策が必要になります。
おわりに
以上、個人型DCに関する記事でした。不足部分等有れば指摘してください。新しい情報が分かったらまた追記していきます。